介護事業を開業するときに利用できる融資制度や事業計画書(創業計画書)の書き方について解説
介護事業を開業するときに「開業するときの資金調達方法は?」「融資にはどのような制度があるの?」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の記事では、介護事業開業時の初期費用や運転資金の確保のための融資を受けることを検討している方へ向けて、介護事業者が利用できる公庫の融資制度や事業計画書(創業計画書)の書き方について解説していきます。
介護事業開業時に利用できる融資制度について
介護事業を開業するときには、開業資金に加え、運転資金を用意する必要があります。(詳細については《介護事業を開業するには?開業までに必要な手続きと費用について解説》のコラムをご参照ください)
自己資金だけでは足りない場合の資金調達方法のうちの一つに金融機関からの借入(融資)があります。
代表的なものとして「日本政策金融公庫の創業融資」と「自治体等による制度融資」があり、どちらも創業から間もなく業務実績が十分でない企業でも活用できる制度内容となっています。
日本政策金融公庫の融資制度
新規開業資金
新規開業資金とは、新たに事業を始める方や事業開始後間もない方を対象とした融資制度で、担保・保証人は原則不要とされています。
さらに女性・若者(35歳未満)・シニア(55歳以上)の方や創業に再チャレンジする方、中小会計を適用する方は、通常よりも有利な条件で融資を受けることができます。
対象者 | ・新規事業者 ・起業後7年以内の事業者 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | ・設備資金 20年以内(うち据置期間5年以内) ・運転資金 10年以内(うち据置期間5年以内) |
メリット | ・保証人・担保は原則不要 ・融資限度額が高い ・金利が優遇される (新規開業資金 1.10%~2.90%) (女性・若者・シニア 0.45%~2.50%) ・返済期間が長い ・据置期間を設定できる |
日本政策金融公庫HP | https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html |
ソーシャルビジネス支援資金
ソーシャルビジネス支援資金とは、社会的課題の解決を目的とする事業を営む企業や事業主を対象とした融資制度です。
対象となるのはNPO法人や介護事業サービスを営む方で、通常よりも低金利で融資を受けることができます。
対象者 | ・NPO法人 ・NPO法人以外で次の(1)または(2)の事業に該当する方 (1)介護サービス事業、保育サービス事業を営む方(注1) (2)社会的課題の解決を目的とする事業を営む方(注2) |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
返済期間 | ・設備資金 20年以内(うち据置期間2年以内) ・運転資金 7年以内(うち据置期間2年以内) |
メリット | ・融資限度額が高い ・金利が優遇される(0.75%~2.50%) ・返済期間が長い ・据置期間を設定できる |
日本政策金融公庫HP | https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/01_sinkikaigyou_m.html |
(注2)日本公庫が定める一定の要件を満たす必要があります。
日本政策金融公庫以外の融資制度
福祉医療貸付制度
福祉医療貸付制度とは、福祉医療機構(WAM)が実施している、介護施設や障がい者施設などの整備を目的とした国の融資制度です。
金融機関からの融資(信用保証協会)
銀行や信用金庫などの金融機関へ直接融資を申し込むことも可能です。
ただし、開業前や開業から間もない場合は審査が厳しくなるため、信用保証協会を介する必要があります。
保証協会を介した場合、通常よりも審査に時間がかかるうえ、保証料の支払いが必要な点などがデメリットとなります。
融資を受けるための事業計画書(創業計画書)の書き方
事業計画書とは、これから始める事業の内容や目標、目標を達成するためにどういった行動をするのか、どのくらいの利益が見込めるのかといった数値を具体的にまとめたものです。
介護事業を開業するにあたって事業計画書を作成することはとても重要な作業になります。
特に創業資金の融資を受けることを検討している場合には、事業計画書の内容次第で融資が受けられるかどうかが決まる、といっても過言ではありません。
事業を成功させるための第一歩として、自社の魅力を漏れなくアピールできる、内容の充実した事業計画書を作成しましょう。
※ここでは日本政策金融公庫の創業融資を受けることを前提として、公庫の創業計画書を参考に項目ごとの内容について解説します。
参考URL:【日本政策金融公庫】国民生活事業各種ダウンロード
事業計画書(創業計画書)に記載する項目
①創業の動機
②経営者の略歴等
③取扱商品・サービス
④従業員
⑤取引先・取引関係等
⑥関連企業
⑦お借入の状況
⑧必要な資金と調達方法
⑨事業の見通し
⑩自由記述欄
①創業の動機
創業にあたって、創業者の事業に対する思いや動機などを具体的に記載し本気度をアピールしましょう。
これまでの経験が介護事業と繋がりがあれば、より一層説得力や信憑性が高くなります。
内容についてはありきたりな表現ではなく、自分なりの言葉で書きながら空欄がすべて埋まるように記載しましょう。
②経営者の略歴等
この項目では、創業者のこれまでの職務経験や経歴、保有している資格や身に着けたスキルなど、介護事業に有益と思えるものを記載しましょう。
介護事業に直接関係のある経験等があれば強いアピールポイントとなります。
もし関係する経験等が少ない場合には、これまでの経験をどう介護事業に生かせるのかを説明すると良いでしょう。
③取扱商品・サービス
取り扱うサービス内容やセールスポイント、ターゲット層などがどのようなものかを具体的に記載します。
例えば、介護サービスの内容(訪問介護、通所介護など)とそれに伴ったサービス内容の詳細(身体介護や生活支援の詳細について)やターゲット(利用者)を説明します。
さらに地域のニーズやライバルとなる他の事業所の状況などを分析し、将来の市場予測から事業計画をより長期的に見据えることができると良いでしょう。
④従業員
介護事業の配置基準に対応する従業員数を雇用形態ごとに記載します。
⑤取引先・取引関係等
介護サービスの利用者は一般の高齢者で、報酬は介護保険から支払われるため「一般個人(自己負担)」「一般個人(介護保険)」と記載します。
⑥関連企業
関連する企業があれば記載します。
創業者あるいは配偶者の方が経営している企業がある場合に記載する欄であるため、該当しない場合は記載は不要です。
⑦お借入の状況
創業者の現在の借入状況を記載する項目です。
事業に関する借入以外にも住宅ローンや自動車ローン、個人カードローンなどについても記載します。
融資担当者は信用情報を照会するため、記載内容と照会内容が一致するように漏れなく記載しましょう。
⑧必要な資金と調達方法
介護事業開業にあたり「いくらの資金が必要」で「必要な資金をどのように調達するか」を記載します。
自己資金の有無や金額、借入とのバランスなどが確認され、計画書の中でも重要視される項目になります。
・必要資金
開業における必要な資金をすべて記載します。
介護事業の設備基準を満たした事業所を準備するために、内装や設備の準備にかかる費用の見積もりや、事業所の賃料が必要になる場合は物件の資料を準備するなどして、すべての数値について根拠に基づいて記載しましょう。
さらに事業開始後、介護保険によるサービス利用料金が入金されるのが2ヶ月後からとなるため、それまでの間に必要となる運転資金(人件費や事業所の賃料)についても具体的な金額を算出しましょう。
・調達方法
資金の調達方法における自己資金はできるだけ多い方が金融機関からの信用度が高くなり、融資の審査が有利になります。
ただし自己資金は通帳などで客観的に証明する必要があり、タンス預金等は自己資金として認められませんのでご注意ください。
⑨事業の見通し
創業当初と事業が軌道に乗った後で事業の収支がどのように推移するのかを説明する項目で、計画書の中でも最も重要な項目といえるでしょう。
記載する金額はできるだけ客観的な根拠に基づき、売上や経費を予測し、最終利益から税金や創業者の生活費を差し引いたうえで借入金の返済が可能であることを説明できると良いでしょう。
例えば介護事業の売上高でいえば「1ヶ月の利用者数×平均単価」の算式とその根拠がわかるように記載します。
別途、月別の収支計画表や資金繰り表などの書類を提出することで信頼度アップが見込めます。
⑩自由記述欄
記載は任意となっていますが、これまでに伝えきれなかった想いを自由に表現できる項目です。
自社の強みやポイントなどを記載してアピールのために活用しましょう。
事業計画書に加えて作成すると良い書類
これまでに解説した計画書の根拠を示すための書類を別紙にまとめるとより説得力が増し、有利になる可能性があります。
特に追加で用意すると良い書類を4つご紹介します。
月別収支計画書
月別に売上高や経費がどのように推移していくのかを示すことができます。
資金繰り計画書
毎月の現金の出入りや増減、借入の返済計画等を示すことができます。
市場調査の資料
市場調査資料とは、地域のニーズやライバルとなる事業所等の状況を詳細にまとめたものです。
必要に応じてグラフや写真などを利用してわかりやすくまとめましょう。
サービスの詳細資料
サービスについての詳細な内容や競争優位性(自社が他社よりも優れている点)などをわかりやすくまとめると良いでしょう。
まとめ
ここまで、介護事業を開業する際に利用できる融資制度と事業計画書(創業計画書)の項目について解説してきました。
介護事業の開業には初期費用や運転資金の確保が重要なポイントとなり、融資を受けるためにはしっかりとした事業計画書(創業計画書)が必要です。
まずは自分なりの計画書を作成して、何度も見直して内容をブラッシュアップしていくことで、自社の強みや弱みを見つけることができます。
そのうえで不足している点などを洗い出し、より良い計画書に仕上げましょう。
事業計画書(創業計画書)をご自身で作成することが難しいと感じられる方や、専門家にブラッシュアップを依頼したいと考えている方はぜひ当センターの無料相談をご活用ください。
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